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「痛いしつらいよ。神崎くんだって痛かったでしょ、ピアス」
「え、」
橙真の両耳に開けられた無数のピアス。派手な外見から、自分で開けたものと勝手に思っていた。それがもし、碧生と同じように椿がやったものだとすれば。ぞわり、と剥き出しの腕に鳥肌がたった。
「でも神崎くんだってつばちゃんから離れない。僕も同じだよ、……いや」
僕の場合はもっとこじれてるかな。そんな風に言う橙真の顔は、いつものような幼さを残したそれではない。
椿と橙真の間に特別な関係があることは明白だったが、それを本人の口から告げられるとけっして愉快ではない感情が腹の底に溜まる。誤魔化すように、サンドイッチに大口で齧り付いた。
「そうだな……。神崎くんは、つばちゃんから家族の話とか聞いたことある?」
「えっ?」
言われてみれば、椿の家族構成など知らない。勝手に兄弟はいないものと思っていたが、それを椿の口から聞いたことはない。声には出さず首を横に振れば、橙真は眉を八の字に下げて困ったように溜め息をついた。
「あまりしゃべり過ぎるとまた怒られるかなあ」
ストローでコーヒーをかき混ぜる。カラカラと小気味の良い音が響いた。
「つばちゃんちお父さんがいなくて、しかもお母さんとはもう十年は会ってないんだ」
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