1人が本棚に入れています
本棚に追加
この子の母親は、目の前の夫婦の一人娘だった。
彼女は就職を機に実家を出て一人暮らし、元気にやっていると定期的に報告があったらしい。
けれど実際は。
会社の上司と不倫した挙句、妊娠していたらしい。
その上司は中絶するように彼女にお金を渡したが、彼女は従わなかった。
こっそり産んで一人で育てるつもりだった彼女。
企み通り、こっそりと『産む』事には成功した。
でもその後が、想像以上に大変だった。
そもそも彼女は上司の手前もあって、妊娠・出産を会社に報告していなかった。
幸か不幸か外回りの多い仕事で、朝と帰りくらいしか会社の人達と会わずに済む。
ゆったりとした服を着るだけで、妊娠を誤魔化すことが出来てしまった
でも、報告していないから産休・育休を取ることは出来なかった。
必要に迫られ、出産直後も働きに出て。
赤ちゃんは保育園には入れなかったから、外回りの途中で自宅に立ち寄ってなんとか世話をしていたらしい。
当然、そんな事が長く続けられるはずもなく、生活はどんどん破たんしていった。
料理も掃除も出来なくなり、部屋は荒れ放題。
やがて体力も限界が来て、彼女は倒れた。
そこで初めて実家の両親に連絡が入る事になる。
だけど両親は、孫の存在を知らなかった。
病院で娘が目覚めるのを待ち、ようやく目が覚めたと思ったら、顔を青くした娘から孫の存在を聞かされて。
大慌てで娘の部屋に来たら、俺がいた。
…という事らしい。
「すいませんね…てっきり、娘をそんな目に遭わせた男が来ているんだと思ってしまって…」
俺の意識がなくなった理由。
それは、目の前で頭を下げる赤ちゃんのお爺さんに殴られたからだった。
お爺さんと言っても、まだまだ若い。
聞けば大工の棟梁をしていという。
シャツから見える太い腕にゾっとした。
年はいってても、ゴリゴリのマッチョじゃないか。
そりゃあ、意識も飛ぶわなぁ。
最初のコメントを投稿しよう!