《不運な空き巣》

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「ところで…あなたは…?」 その質問に、俺は苦笑いを浮かべた。 どこからどう見ても、俺は立派な不法侵入者だ。 だからこの夫婦も、警察に通報したんだろう。 でも俺のやった事と言えば、赤ちゃんの世話と部屋の掃除だけで盗みなんかやっちゃいない。 まぁ、あの部屋にいる間、食べ物だけは頂いたけど、それは不可抗力と言えなくもない。 真実を知るのは、俺一人。 だから誤魔化そうと思えば、出来たのかもしれない。 赤ちゃんの声が聞こえたから様子を見に入ったとか、鍵は元から開いていたとか。 多少の無理があったとしても『孫の命の恩人』という事実がある以上、あんまり追及もされないだろうし。 でも。 意識が飛ぶ直前、この男の人に殴られた瞬間に俺は思ったんだ。 『悪いことはするもんじゃないな…』って。 だから、全てを正直に話した。 仕事をクビになった事、開いている窓を見つけた事、出来心で空き巣に入った事。 聞いているのは被害者の親だし、隣にいるのは警察官だし、正直いつまた殴られるかとヒヤヒヤしてた。 だけど、そんな事にはならなくて。 赤ちゃんを見つけたところから、部屋の片づけを始めた辺りに話が差し掛かると、皆笑いながら俺の話を聞いていた。 「娘から、相当部屋が汚れていると聞いていました。大変だったでしょう?」 「ええ、まぁ…風呂を洗った時には『俺、何やってんだろ?』って一瞬我に返っちゃって…」 「アンタ、随分マメなんだなぁ」 俺には絶対に無理だ…。 豪快そうな男の人が呆れた様子で呟いたのが、やけにおかしくて。 皆で笑うことになるなんて、思っても見なかった。
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