《不運な空き巣》

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それから、しばらく後。 「雅さーん、そろそろ行きますよー」 「えぇっ?もうそんな時間か?」 俺は、ある土木関係の会社で働いていた。 「そうですよ!っつか、なんでいつも準備出来てんのに出てきてくれないんスか!」 「本当になんでかねぇ…いつも悪いね、呼びに来てもらって」 「いえ、シゲ兄なんかまだ寝てるんで、それに比べりゃマシっすけどね」 俺を呼びに来た若い奴が、今度は兄貴分を呼びに走る。 その背中を見ながら、縁っていうのはつくづく不思議なもんだと思った。 俺を拾ってくれたのは、あの夫婦の旦那さん、 俺を殴った人だった。 不法侵入はしたけど盗みはしておらず、むしろ人助けをして感謝までされているということで、俺は逮捕されなかった。 これがいわゆる、示談というヤツだろうか。 お咎めなしで釈放される事が決まり、三人揃って胸をなで下ろして。 その後、夫婦から「この後どうするのか」と聞かれた。 でも、俺には答えられるような予定なんかない。 またゼロから仕事を探すだけだ。 そう答えたら、夫婦は救いの手を差し伸べてくれた。 隠すことをせず、全て正直に話した俺の事を好意的に見てくれたらしい。 大工の棟梁をしている旦那さんは、若い衆の為に小さなアパートを経営していて、 「皆で揃って現場に入るからな、居なけりゃ誰かが呼びに行く。あそこなら遅刻することもないだろうよ」 俺がクビになった理由を知って、そう言ってくれたのだ。
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