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ウェットティッシュは掃除の時に見つけてあった。
それで優しく拭いてみたけど、赤ちゃんのお尻は赤くかぶれてしまっている。
触ってみれば髪の毛も汗でベトベトだし、しばらくお風呂にも入れてもらってないのがわかった。
ここまできたら、もうヤケだ。
赤ちゃんを風呂に入れてやろうと、風呂場を覗けばカビだらけ。
俺はキッチンにあったゴム手袋をはめて、収納棚から強力なカビ用の洗剤を取り出した。
元ビル清掃員の実力を、ここで出さずにいつ出せと言うのか!
洗剤をかけて時間を置いて、洗い流して磨き上げて。
ようやく奇麗になった風呂場を見て、ふう、と息を吐いた瞬間に、俺は我に返ったのだ。
…が。
改めて、ピカピカになった風呂を見て思う。
我に返ったところで、引き返せるわけでもないと。
しばらく使われていなかったであろうベビーバスにお湯を張り、そこで優しく赤ちゃんを洗った。
タオルと替えの洋服は、掃除をした時に見つけてあった。
お風呂上がりでほかほかの赤ちゃんを優しく拭いて、新しいオムツとキレイな服を着せてやる。
そして、そのままタオルケットにそっと寝かせた。
少しの間目を放し、濡れたタオルと脱がせた服を洗濯カゴへ放り込んだら、スッキリしたのか、次に見た時にはもう赤ちゃんはすやすやと寝息を立てていた。
その時、既に深夜の一時。
親が帰ってくる気配はない。
空き巣の俺は、親が帰ってくる前にこの家を出た方が良いのだろう。
だが、親はこんなに長い間子供を放置して、一体どこに行っているのか。
何をしているのか。
掃除の時に、タンスや収納の中も物色させてもらったけれど、男物の洋服は一切なかった。
きっとシングルマザーなのだろう。
子育ては大変かもしれないけれど、だからと言って放置して良いわけでもない。
こうなったら…!
通報されるのは覚悟の上だ!
それでも一言、文句を言ってやらなきゃ気がおさまらない!
そう思い、俺はどっかりとソファに腰を下ろした。
赤ちゃんの母親を待つ為に。
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