《不運な空き巣》

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さすがに、困った。 この家の子である赤ちゃんと、空き巣の俺。 奇妙な共同生活は、もうすぐ丸二日を超えようとしている。 そろそろミルクやオムツがなくなりそうだ。 ついでに冷蔵庫の中身や買い置き食材を拝借していた俺の食糧も、限界を迎えそうだった。 時間が経ったことで、俺の怒りは治まってきていた。 だからこのまま帰ってしまおうかとも考えたけど、母親はいつ帰ってくるかわからない。 ここまでくると母親が二度と帰って来ない可能性もありそうで、放置することは出来なかった。 かといって、買い物に行こうにも俺は空き巣だ。 この家の鍵なんか持っちゃいない。 俺が言うのもなんだけど、玄関の鍵をかけずに外出するのは抵抗があるし、まさか外の電柱を使って窓からの出入りを繰り返すわけにもいかない。 百歩譲って鍵の事は諦めるとしても、そんな不用心なこの家に赤ちゃんだけを置いて行く事も出来なかった。 大人不在の不安を解消する為に、この子を連れて買い物に行くなんて事も考えたけど、万が一、その間に母親が帰ってきたら誘拐したことになってしまう。 参った、どうしようか…。 傍らには俺の手をおもちゃ代わりに遊ぶ赤ちゃん。 適当に逃げたり近付いたりさせてみると、キャッキャと喜んだ声を上げた。 すっかり懐かれてしまった。 そして俺の方も、間違いなく情が移っていると思う。 出来れば早く母親に帰ってきてもらい、事情を説明出来たら、それが一番なんだけど。 ほう、と大きなため息を吐く。 そろそろお腹が空く頃かな? あと一回分くらいなら、確かミルクは残ってたよな…?。 そんな事を考えていた時、玄関からガチャガチャと鍵を開ける音がした。
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