3人が本棚に入れています
本棚に追加
兄の結婚
新たな家族となる人に会いに来い。
そのように手紙には書かれており、ハイデル騎士団のパリス・ボルドウィンはあちらもこちらもおめでたいことだと溜め息をついた。
つい最近、護衛対象のミナが風の宮公デュッセネ・イエヤ…デュッカと結婚して名を変えたばかりだ。
少なからぬ好意を寄せていた相手なので本当は少し落ち込んでいる。
「なんだ、元気がないな!せっかくの休みだ、楽しめよ!」
そう言いながら同じくハイデル騎士団のアニーステラ・キャル…アニースが背中を叩いて通りすぎていった。
鍛練を終えて、食事に向かう者が多い時間帯だ。
ほかにもハイデル騎士団の姿が見られる。
そのなかに、団長ムティッツィアノ・モートン…ムトの姿を見付けて、パリスはそちらに歩いていった。
おはようと挨拶を交わし、食事の進み具合を見て、席を空けておいてくれと頼む。
それから配膳台に並んで、好みの朝食を選んで盆に載せ、食堂特製合わせ茶を載せるとムトが空けていてくれた席に座る。
「どうした、今朝はセラムは一緒じゃないのか」
パリスは修練をしており、セラム・ディ・コリオは鍛練の最中で、切りが悪いようなので置いてきたのだ。
そう言うと、なるほどと頷いて、何か俺に話かと尋ねてきた。
「実は兄が明日、結婚するので、フェスジョア区に行ってくる。帰りは円(えん)の日になるだろう」
フェスジョア区といえば、ここ、レグノリア区から最も離れたアルシュファイド王国最北の区だ。
船で行っても10時間はかかる。
「分かった、気を付けて行けよ。船か?」
「ああ、その方が楽だからな」
「それにしてもめでたいことが続くなあ」
近い席にいたハイデル騎士団員のスティルグレイ・アダモント…スティンがそう言う。
「それにしちゃあ俺たちには何事も起こらないがな」
ムトがそう返して、食事を終わらせ、食堂特製合わせ茶を飲んだ。
「出会いがないんだよ、出会いが。毎日毎日鍛練続きで…」
「機警隊の女騎士たちと仲良くやってるじゃないか」
「あの仲の良さはそういう目で見ないからこそなんだよ…全員仕事熱心だったら。付け入ったら痛い目見る」
すると、くすくすと笑う声がした。
「そんなに頑なではないんだけどね。ただ、あなたたちは私たちの数段上を行っているから、追い付くのに必死なのよ」
政王機警隊のキャレイン・ボルトがそう言って近くの席に座った。
最初のコメントを投稿しよう!