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マトレは仕方なさそうに笑った。
「情報収集のしやすさを考えろよ。ここは壁があって聞き取りにくいだろ」
「たまの楽しみぐらい許せよ」
ボズが頷いた。
「確かに、たまには息抜きしないとな」
「分かった分かった、たまに、な」
マトレはそう言って、つまみに手を伸ばし、確かにうまいと目を見張る。
それは鳥肉を一旦揚げて、甘辛い垂れにくぐらせたもののようだった。
「こっちもうまいって、食べてみろ」
そこへ、新たな客が入ってきて、店主に向かっていつものを一杯、と言って、店の厨房から直接品物を提供できる酒台の席に着いて店主に話しかけた。
「とうとうベセネからバッセンまでの光の道が通じたよ!いや、信じられないね!これまでより2時間は早く通れるようになったんじゃないかね!馬車の進みが速いのなんの」
ベセネはフロアの隣、ボルファルカルトル側の国境の町で、バッセンはボルファルカルトル国のほぼ中心にある首都だ。
そんなに速いかね、と店主が聞くと、客は身を乗り出して言った。
「それだけじゃないんだ!人や荷物を木に吊るして運んでいるんだ!落っこちないか不安だけどね、これがまた早い!」
「へえ。面白いことをするもんだ」
「そうだろう!ボルファルカルトルは変わったよ!」
客は我が事のように誇らしげだ。
「あれだけ早ければ、葉野菜でもバッセンまで売りに行けるかもしれない。楽しみだ!」
マトレたちも、ボルファルカルトル国で行われている事業の話は把握していた。
客はボルファルカルトル国の商人らしく、フロアで食料品を仕入れてはバッセンで売っているらしかった。
「あんなに喜んでもらえているとはな。アーク様にお伝えしなければ」
ボズの言葉に、マトレが首を横に振った。
「いや待て、市場全体の様子を見てからの方がいい。1人だけの話ではな」
「そうか、そうだな」
そんな風に話して、翌日はフロアの市場に出掛けることにした。
少年少女たちもほとんどが付いてきて、市場の賑わいを楽しく見る。
マトレたちはゆうべの男の言葉を確かめに、葉野菜を売っている商人に、売れ行きはどうだいと聞いてみた。
すると、ボルファルカルトル側から買い出しに来た商人が増えたという話だった。
「なんでも、朝早く出発すれば、宙に浮く籠を付けた馬を走らせて、夕市(ゆういち)で売れるんだと。便利なものができたらしいね」
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