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「心の準備がって、どんな風に言いくるめて婚約したんだ」
「ちゃんと手順は踏んだぞ」
心外そうにクランは言った。
「そちらはどうだ。うまくやっているか」
この大陸に住むすべての人が持つ土、風、水、火の力を発する異能。
それを欠片も持たないと言われながら、強い力量を求められる騎士となった弟のことを、クランはずっと気にかけていた。
「ああ、うまくやっている。クランのお陰だ」
パリスを、異能なしでも騎士としてやっていけるように導いたのはクランだった。
「それに、無能力という判別結果は、正確じゃなかったんだ。実は、透虹石(とうこうせき)という石があるんだが、知っているか」
「いいや」
「透虹石は、人から異能を奪う性質があるんだが、俺がまさにその性質だそうなんだ。つまり、他人やサイセキから異能を奪えば、問題なく使えるんだ。そのために、俺自身には4種の異能が存在しないんだ」
クランは驚いた。
「それは…それこそ得難い能力じゃないか。すごいな」
「ああ。お陰で仲間を守れる」
クランは笑ってパリスの肩を掴んだ。
「よかったな」
「ああ」
話していると、椅子のひとつに座るセレブが言った。
「兄貴たち、座れよ。クラン、危険な事してるって、噂で聞いたぞ。大丈夫なのか」
「噂?」
クランが聞き返すと、セレブは渋面を作った。
「カザフィスから品物を直接仕入れているって言うじゃないか。それを知ったハドゥガンタの者に、もう何度も襲われているって」
ナタリイが、まあ、と口元を押さえた。
「あなた、知ってらしたの」
カルトスを責めるように見た。
カルトスは困ったような顔をした。
「知っていた。しかし無事だしな…」
パリスが聞いた。
「首謀は誰か判っているのか」
クランはうっすら笑った。
「ああ。個人でどうにかできる相手じゃない。まあ、降りかかる火の粉は完全に払ってやるさ」
「それで結婚も遅らせたのか」
「最近は諦めたのか、襲われることがなくなった。別の手を考えているんだろうが、そうはさせないさ」
「クラン…」
クランはパリスの背中を叩いた。
「そう暗い顔をするな。商売敵とは妨害をしてくるものさ。こっちも、し返してやってるところだ」
ハクラ港を掌握しているのはボルドウィン家だ。
それを敵に回せば、物の流れは滞る。
これまで配慮してやっていたことを、やめてやったのだ。
それだけでも、敵には打撃だったはずだ。
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