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政王の従者
アルシュファイド王国は平和な国だ。
ふたつの峻厳な連峰に挟まれて、侵略の歴史を持たない。
この国を支える王は2人。
1人は、その膨大な土の異能でアルシュファイド王国全土に及ぶ絶縁結界という不可侵の膜を造る祭王ルシェルト・クィン・レグナ…ルーク。
もう1人は、膨大な水の異能を持ち、政治にその腕を振るう政王アークシエラ・ローグ・レグナ…アーク。
セレンは、そのアークの従者として務めている。
だが週末、藁(こう)と円の日は休みだ。
この日のうちにしてしまいたいのは、鍛練と修練と情報収集だ。
そのため、セレンは朝早くから、まずは黒檀塔の水の修練室に行く。
修練とは、自分の律動に従って1カロンのサイジャクを使用し、消滅させていくものだ。
これが完璧に出来ると、異能の使い方に失敗や過不足がなくなるのだ。
これを朝食の前にしてしまうと、食堂に行って食事を摂る。
この時間になると食堂は混むので、空いている席を探すのは一苦労だ。
膳を調えて、さあ今日はどこに座ろうと見回すと、手を上げる女騎士が目に入った。
アニースだ。
彼女は今日は、ハイデル騎士団員のイルマ・リ・シェリュヌと、側宮(そばみや)護衛団のリザウェラ・マーライトと3人で露台の机を囲んでいる。
席はあとひとつ空いており、セレンはありがたく座らせてもらうことにした。
「おはよう!今朝は鍛練場にいなかったね」
アニースの言葉に、セレンは頷いて言った。
「はい。修練室にいました。空中を跳躍する訓練をこのあとやるので、その前に修練をしておきたくて」
「真面目だねえ。若いんだからたまには遊びなよ」
「でも、訓練で空を跳ぶのが、今はとても楽しいんです」
「ああ、それ解る!私もやり方変えてから、確実に空中にいられる時間増えたもの。体が軽くっていい気持ち!」
リザウェラが釘を刺した。
「事故には気を付けてね。教えたからには最後まで面倒みたいけど、今日は情報収集に行くから…」
セレンはぴくりと反応した。
「どんな情報ですかっ?」
「え?ああ、水の応用修練場をレテ湖に設置する話は知っている?」
セレンは頷いた。
「はい。聞いています」
「それで、事前にどんな場所か知りたいのよ。海に繋がってるから、当然流れもあるし、湖底の形なんかもね、結界構築する上で重要と思われることが知りたいんだ」
「そういう情報収集ですか…」
「ん?セレンも何か情報収集?」
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