海辺の家

8/44
前へ
/181ページ
次へ
仕事を終えて颯太の家に一緒に行く。 颯太はお母さんの病院に行き、私は夕飯の支度をし、 一緒に夕飯を食べてから、送ってくれるようになった。 休みの前の日は一緒に病院に行き、山猫で食事をしながらゆっくりした。 最近の颯太は、お母さんの具合があまり思わしくないので、疲れた表情だ。 お母さんは痛み止めの強いくすりを使う事になった。 ほとんどに時間は眠っていて、 起きても、夢と、現実の間を行き来している。 颯太と亡くなった夫と、思い違って話をしたり、 私を夏希ちゃんと思ったり、 お母さんはゆっくり、小さな声で、昔の出来事を何度も繰り返し、楽しそうに話す。 今は毎日のように病室に顔を出す颯太は、お母さんの様子が、辛いのだろう。 私を家に送る車を家の近くに止めてから、 何度も私を確かめるように抱きしめ、くちづけを繰り返す。 静かなくちづけは少し悲しい。 「颯太とずっと一緒にいる。」 と私がくちづけの間に何度も繰り返さないと、 颯太は腕を離さなくなっている。 もうすぐ悲しい別れが訪れる事を私達は知っているのだ。
/181ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3236人が本棚に入れています
本棚に追加