帰郷

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「いてーな、乱暴者」 祐樹がちょっと気まずい顔をして 「…そんなに嬉しい訳じゃないけど、 …えーと、確かにケーキを買って帰ろうとしてたんだけど… えーい、白状すると、 友達のオススメのケーキ屋ってやつが 3年位前に近所にできたところだったから、寄ったわけよ。 そしたらさ、なんと、そこのパティシエが風間くんだったんだよ。 覚えてる?風間颯太。 近所に住んでる…美咲と同じ学年で… メガネでチビだった… 今はスッゲーデカくなってて、 俺はちっとも気がつかなくってさぁ、 …美咲がしばらく実家暮らしって教えたら、このケーキを奢ってくれたんだよ。」 へー。 さっき会ったよ。 チビの颯太。 パティシエねえ。 あ、もう、チビじゃないか… バスケットボールばっかりしてたと思ったけど、 今じゃ、スイーツ男子って訳だ。 お母さんがコーヒーを淹れてきて、ローソクをケーキにたてる。 全部で10本だ。 私は笑って 「なんのお祝い?」ときく。 「せっかく入ってたから、もったいないでしょう? ほら、美咲、マッチで火をつけて」とうながされる。 私が火をつけると母が、 「じゃあ、お願い事を言ってから、吹き消して。」 「お願い事かぁ。」 と、ちょっと考え、心の中で、 『新しい生活が楽しいモノでありますように。』 といって、ローソクの炎を吹き消した。
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