第1章

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まさに青天の霹靂だった、娘が押し込み強盗の一味であるはずがない、しかも父親に隠れて役者と通じていたなんて・・・ 「間違いかどうかは番所で調べればわかることだ、かまわねえ、踏み込んで女を引っ立てろ」    同心の鬼頭源三郎は岡っ引きに命じて屋敷の中に踏み込んだ 「お待ち下さい、お役人さま」    大森屋の主人が止めるのを振りきって役人達は土足で店の奥へと入って行った  可奈が琴を弾いていた奥座敷の障子が乱暴に開かれた   「お前が可奈だな」   「は、はい」    可奈は琴を弾く手を止めて顔を上げた、怖い形相の男達が立っていた、可奈は大棚の商家の娘らしい高価な花柄の着物姿だった    「御上の御用だ、巳之助は知ってるな、情を通じていると言うのは誠の事か、隠すと為に成らぬぞ」    いきなり巳之助様の名前を告げられて可奈は狼狽した、父が青ざめた顔で立っていた   「巳之助さまが何か?」    可奈は震える声で聞き返した   「心当たりが有るんだな、女を縛り上げろ」     岡っ引きが可奈の身体に縄を巻き付けた   「な、なにを、いや、いやです」    可奈は身を捩らせて岡っ引きの縄目から逃れようとした   「じたばたするんじゃねえ、おとなしく、お縄につくんだ」    岡っ引きは可奈の体を押さえつけて両手を背中に捻じ曲げると、たちまち後手にきつく縛りあげた   「お役人さま、無体な、わたしがなにをしたというのですか」    可奈は縛られながら涙声で訴えた   「黙れ、こんな可愛い顔して押し込み強盗一味の仲間とは、わからねえもんだな」   「えっ、押し込み強盗・・・」   「調べればわかることだ、引き立てろ 」   「いやいや、縄をほどいて、何かの間違いです、お父様、助けて」    可奈は泣きながら父の名を呼んだ   「じたばたするんじゃねえ、おとなしく縛に付かねえと毒婦のように丸裸に剥いて連れて行くぞ」    同心が圧し殺した声で可奈を睨み付けた、丸裸に剥いて連れて行く、同心の恐ろしい言葉に可奈はまるで蛇に睨まれた蛙のように怯えて逆らうことが出来なかった  抵抗を失った可奈は岡っ引きに無理やり背中を押されて廊下を引き立てられて外に連れ出された、可奈は十八歳になったばかりだった、氷雨が容赦なく可奈の華奢な身体に降り注いだ              
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