1年に1度の魔法の日。

2/2
0人が本棚に入れています
本棚に追加
/2ページ
少年はいつもより早く布団から出ると、その勢いのまま自室のカーテンを開ける。そこには空からアメ(・・)が降る……という光景が広がっていた。 「お母さん!お父さん!今日は特別な日だね!」 少年は家族の集まるリビングに行き、「おはよう」より先にそう叫んだ。 「……そうねぇ。」 「あぁ、今日だったか。」 しかしながら両親の反応はとても乾いており、少年はそれ以上はしゃぐのを一旦やめた。 ……この街は「雨の街」と呼ばれている。 理由は単純。この場所はどういうわけか1年を通して雨が止まないのだ。たった1つの例外を除いて。 今日はその例外の日。「雨」ではなく「アメ」……つまり雨の代わりにお菓子の飴玉が降り注ぐ。しかもこの飴玉、落ちる速度がそこまで速くないので、当たってもそこまでの痛みは生じない。さらに地面に当たると消えてしまうので掃除の必要がない、といった魔法のような代物なのだ。 さて、そんな少年はいつもより早く着替えを済ませ、いつもより早く朝食を平らげると、 「いってきまーす!」 と元気よく、これもまたいつもより早く家を出た。 少年は学校に向かう途中の道で1度立ち止まり、手で皿の形を作ってアメを受け止め、包み紙を剥がしてそれを口に運ぶ。この包み紙もアメから離れると消えてしまった。 「ん~」 1人なので言葉には出さなかったが、この日降るのアメは、市販のものよりおいしいらしい。なにより少年のスキップがそれを物語っていた。 学校に着くと教室の中ではクラスメート達が各々お喋りをしていた。いつもは遅刻ぎみで来る子達も、この日だけは早く登校していた。 「オレ、傘逆さまにして歩いてきたんだ~。見ろよ、ほら。」 「スゲー!」 「いっぱい入ってるじゃん!」 「気を付けろよ、床に落ちたら消えちゃうから。」 いつもはみんなに威張っている力持ちのあの子も、今日はアメを集める達人としてみんなから尊敬の眼差しを向けられていた。 少年も、その傘からアメを1つ貰い頬張る。クラス内では学校が終わったら集めながら帰ろう、という話で盛り上がっていた。 そして、少年もその話に混ざりながらふと思うのだ。 雨でびしょ濡れになる毎日よりこんな楽しい毎日が続けば良いのに……と。
/2ページ

最初のコメントを投稿しよう!