人生モブだった男。歴史の表舞台に立つ。

1/2
25人が本棚に入れています
本棚に追加
/53ページ

人生モブだった男。歴史の表舞台に立つ。

「この新聞に写っているのは、いったい誰なんだ?」  1944年。4月初旬。  SMC【対ナチス・ドイツ欺瞞工作機関】の次長、英陸軍中佐ジャービス・レイドは、初夏に予定されている大作戦に向けた謀略を起案する大仕事の気晴らしにと、紅茶片手に手にした新聞≪ニューズ・クロニクル≫の、とある1枚のピンナップ写真をマジマジと食い入るように見詰め、つい大声で叫んでしまった。 「おい君、この新聞の写真の主はどの部隊に属しているか、早急に調べてくれ給へ!!」 「イ、 イエッサー!」    自身のデスクの傍らで、徹夜で作業に追われていた機関員の中尉に指示を出し、早急に。と、彼なりの落ち着いた口調で訳が分からないと云った様子の中尉を部屋から追い立て、自身はたまった書類を放っポり出して新聞の写真を今暫し眺める仕事に没頭した。  彼は、得も言われぬ緊張感と、虚空に現れた希望の閃きからくる汗まみれの手に握りしめられた紙面に踊る≪あなたは騙されている!≫と題した煽り文句と共に、白黒ながら黒いベレー帽を被った中年の軍人がこっちを向いて、さも得意げに写されていたのだ。     
/53ページ

最初のコメントを投稿しよう!