632人が本棚に入れています
本棚に追加
しかしながら、明らかな財産目当てでもありましたでしょうが、神野の財産と共に雄貴様がお美しい浮子様を愛してらしたのも事実でございます。
雄貴様を毛嫌いし、御結婚を認めない喜一郎様に対しては、浮子様もまた初めて徹底して反抗されました。
お食事も召し上がらず、諭しても、諭しても尚お聞き分けなく、これといった理由も言わず反対される喜一郎様に、毎朝夕『死にます』などと言って脅したりしたものです。
浮子様を奥様と同じように愛されていた喜一郎様はとうとう御自身が用意した、
<別のお方の神野の胤>
を産み育てることをただ一つの条件として、雄貴様が神野家に入ることを許したのです。
雄貴様はその条件はご存知ありませんでした。
生来、御気性も穏やかで物事を深く考えることがお嫌いの浮子様にしてみれば、まだお子様のことなど想像にも及ばず、喜一郎様と本来の良好な関係を取り戻し、とにかく雄貴様が神野家に入ることを許されるならば、と、その条件をのまれました。
喜一郎様もお辛かったことでしょう。
奥様の忘れ形見であります浮子様を勘当する事もできず、その熱情を思えば安易に雄貴様を手にかけることもできず、心労の果ての譲歩であったのでございます。
喜一郎様のことでございますから、縁も所縁もない種を用意させることは
造作もない事でしたでしょうが、、、」
最初のコメントを投稿しよう！