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夏の日
〈雅の記憶〉
─ 暑い日だった
日差しが痛く、眩しい8月。
どこからか蝉が急降下して、交通量の多い交差点の横断歩道に着地した。
そしてまたすぐに羽音を震わせて少し飛んでは、ぱたりと落ちる。
何回か繰り返しているうちに飛び立つ力をも失い、灼熱を帯びた路面から動かなくなった。
その際を車がひっきり無しに走る。
潰される前に捕まえてやろうと一歩踏み出したとき、キラキラと煌めく車道にすっと入る白いシャツの彼がいた。
その素早い動きは車間距離を確かめながら長身の身を屈め、白い塗装を指先でなぞるようにして斑な茶色を掬い取り、手の中に包んだ。
歩道に戻る彼を信号待ちしていた数人がチラリと見、それから彼の手の中でビビと短く震え騒ぐ羽音に はっとして、避けるように距離をあける。
『あすとだ』
信号が変わり、人々が一斉に歩き出す。
僕は動かずに、彼を見ていた。
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