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長い長い間そうした後、ゆっくりと起き上がり、濁った目の奥を怒りに染めて手元を見据えた。
「なんと残酷なことでしょうか。
その時の雅様の様子は知る由もありません。泣き叫んだかも、或いは恐怖に震えていたかもわかりません。
何故か、といいますと、、、
そうですね、男二人がその場の雅様のご様子を語る前に、怒り心頭に発した喜一郎様が神野家に仕える主治医と共に、彼らの口を闇に葬ったからでございます。
肝心の雄貴様はその後、神野家で自殺されました。
捉えられてからは何も語ることはなかったそうでございます。
そして、、、
事件を境に雅様は、お人を変えました。
お声は一切お出しにならず、表情もなくしておしまいになりました。
例外はただひとり、喜一郎様だけでございます。お二人でお部屋にいらっしゃる時のみ、幾らかの会話をされたようです。
喜一郎様は、大切な雅様が取り巻く周囲からの好奇に曝されることのないようにと、あのお家を御自分のビルで囲っておしまいになり、私と、、、主治医だけを雅様のお側に置いたのです。
はい、ちょうど駅前の再開発のときでした。
そうして、長年神野家に仕え、成人し、主治医となった方が雅様の日常にお仕えになっていました」
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