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桃とタケル 1
「なあ、相沢桃ってレズなのか?」
渡り廊下を歩いていた小雪の行くてをふさいで、隣のクラスの渡辺タケルが、緊張した様子で尋ねた。小雪は立ち止まってタケルを見つめた。
運動が得意でクラスの中でも人気があり、友達も多い。明るくて優しいという話を聞く。ちょうどいい人材だ。
待っていた時が来た、と思った。
「桃は、レズじゃないわ」
「あのさ、じゃあ……」
タケルは言葉に詰まり、一度、天井を向いて呼吸を整えた。
制服のポケットから白い封筒を取り出すと「頼む」と言って小雪に差し出す。
「相沢桃に渡してくれないか」
封筒にはなんの飾り気もなく、ただ真っ白で、表に「相沢桃様」とへたくそな字で書いてある。受け取った薄っぺらいその封筒は、小雪の手にずしりと重かった。紙の重さではない。小雪の心の重さだった。
桃を渡したくない。今すぐこの薄っぺらな封筒を突き返したい。その思いの重さだった。
けれど、小雪はぐっと唇を噛んで大きく息を吸った。
「渡しておくわ」
タケルと目を合わせないようにしながら、小雪は教室へ向かって歩いて行く。
すれ違う時、小雪より背が低いタケルの頬が真っ赤に染まっているのが見えた。
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