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目の前でこの封筒を破ってやりたかった。
でも、もう、遅い。受け取ってしまった。小雪は振り返らなかった。
もう、小雪は決めてしまったのだ。
桃を手放すことを。
翌朝、家から出てきた桃は、小雪を見て目を丸くした。
「わあ、小雪が眼鏡だあ!」
駆け寄って来て、ぎゅっと抱き着く。
「視力、そんなに悪くないよね?」
小雪を見あげて、眼鏡に触れようと手を伸ばす。小雪は桃の腕の中から抜け出して、眼鏡をくいっと押し上げた。
「どうしたの、小雪?」
きょとんとした桃から小雪は目をそらす。とても、目を見て言えるとは思えなかったから。
「ここで別れましょう。今日から、ひとりで学校に行って」
昨日から決めていたセリフを口にすると、すぐにでも自分が言ったことをなかったことにしたいという思いが湧いてきた。その思いを口にしてしまいそうなのを、ぐっとこらえて下を向く。
「え、なんで? 一緒に行こうよ」
突然のことに、桃は目を丸くして小雪の腕に手を伸ばす。小雪はすっと一歩下がった。
「小雪?」
とまどった桃は、宙に浮いたままの腕を自分の胸に抱いて不安げに小雪を見上げた。
「これ、預かったから」
鞄から白い封筒を取り出して、桃に差し出す。桃は封筒をじっと見るだけで受け取らない。
小雪は黙って桃の手に封筒を押し付けた。
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