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小雪と桃 帰り道
「こーゆき、こーゆき」
桃が小雪の手を握って歌いながら腕を振る。
無事にスライドを完成させた帰り道、二人はいつものように並んで歩く。初春の日暮れは早く、あたりはぼんやりと夜の暗さに沈み始めている。
小雪は薄暗いなかでも明かりをともしたように明るい桃の声に耳をかたむける。
「なあに、桃?」
背の高い小雪を見上げて、幸せそうに、えへへ、と桃は笑う。
「なんでもなーい、呼んだだけ」
かわいい桃の笑顔を見て、小雪は輝くように笑う。
小雪の笑顔はいつもならば、すぐに消えてしまう雪の結晶みたいにささやかなものだ。けれどただ一人、桃に笑いかけるときは違う。
桃の前でだけ、小雪は太陽のように笑う。
小雪と桃は生まれた時から一緒にいた。
産婦人科の保育器が隣同士で、母親たちのベッドも偶然にも隣同士だったから、二人はいつも一緒に寝て、一緒に起きていた。
母親たちは自然と仲良くなって、それぞれの自宅も近いことがわかり、ほとんど毎日お互いの家を行き来した。
小雪が一番初めにしゃべった言葉は「ママ」でも「パパ」でもなく「もー」だった。
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