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「もー」と呼びながら桃に手を伸ばしていたのだと、母親たちはいつも小雪と桃に話して聞かせた。それは幼馴染にはよくある昔話の一つだっただろう。
だが、小雪には生まれた時から桃と一緒にいられたという喜びの証しになっている。
「小雪は生まれた時から桃の面倒をみる運命なのかもね」
そう言って母親たちはいつも笑う。小雪はわざと困ったふりをして、眉根を寄せてみせる。そうすると桃がかわいらしく頬をふくらませるところを見られるからだ。
「もう、小雪! そんな顔したらダメ! 小雪は一生、桃と一緒にいるんだからね。どこにも行っちゃだめだからね!」
その甘い言葉は優しい鎖になって小雪を繋ぎとめる。桃に縛られて、小雪はくらくらするほどの幸せを感じる。
桃がわがままだと、みんなが言う。だが、小雪だけは、そのわがままを聞いてやることが嬉しくて仕方ないのだ。
一生を桃と一緒に過ごす。
それは、小雪が生まれた時から、ずっと望んでいることなのだ。桃もそれを望んでくれる。
二人がいつまでも一緒にいることは当然だと思えた。
小雪と桃の家はすぐ近くだ。学校から二十分、一緒に歩いて帰ってきて、分かれ道に来たら、そこから小雪の家までは真っ直ぐ進んで五分、桃の家は右に曲がって三分。小雪は桃の家まで一緒に歩いて、引き返して行くのを日課にしていた。
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