エデンの夢

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現実の娯楽や快楽には、現実であるがゆえに限界や制約がある。身体的、法的、倫理的、経済的な様々な問題が発生する。暴飲暴食をすれば健康を害するし、性的欲望を追求するには同意してくれる相手が必要だ。ところが、オネイロスにはこれらの問題が存在しない。すべてが夢の中の出来事なので、自分の性癖が他人にバレることもなく、嫉妬されることもない。現実世界の娯楽・快楽類をオネイロスの与える夢は常に上回る。「一番大きいものを食ったホラ話をしたものが優勝するという話」で最後に「そういうお前をわしゃ食った」と後出しするのに似ている。現実の快楽が大きくなっても、オネイロスの与える快楽は常にそれを上回る。 発明の才能、キャッチコピーの才能に加え、ルーシーは商才にも長けていた。自身の経営する「寝カフェ:エデンの夢」においてオネイロスの貸し出しを行い、着々と影響範囲を広げていった。 ルーシーの「我々の事業領域は全人類の夢現(ゆめうつつ)の世界。扱う商材は全ての願望」ではじまる一連の事業計画演説は動画の再生回数で世界記録を更新した。特に「夢の中で私を出現させる殿方に特別料金を請求することもございません」と微笑む部分は最も高い人気を集めた。 ルーシーは瞬く間に世界的経営者にのし上がった。科学者、そして経営者として名を成した彼女が次に目指したのが政界への道であった。 「私には既に多くの方々の願いをかなえたという実績があります。なので私が新たに公約を唱えることはいたしません。今までに私が皆様に提供した結果にご満足いただけているのなら、私に投票してください。私は元首となって『エデンの夢」をより手軽に、より安価に皆様に提供することでしょう」 ルーシーは圧倒的多数の支持を得て当選した。実質、独裁者の道を歩み始めた彼女だが、横暴をふるうことなく、公約を守り、オネイロスをさらに普及させた。     
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