エデンの夢

その後２０年。ルーシー不破はまったくその美貌に衰えを見せることなく、人類を支配していた。オネイロスによって支配された人類はどうなったか？　夢のような未来がもたらされたのか？　

精神が未発達な未成年には危険だと判断され、オネイロスの使用は成人に限定されていたが、それでも発生する問題は酒やたばこ、麻薬の比ではなかった。

まず、オネイロスの使用過多による寝不足の人間が増えた。オネイロスの明晰夢では脳が興奮状態に置かれ続ける。疲労が残り、結果として居眠りに伴う事故が多発するようになった。麻薬とは異なり化学的、物理的に有害物質が発生するわけではないが、その精神的な中毒性は麻薬をはるかに凌駕した。眠りの世界から現実世界への帰還を拒む人々が増加し、社会問題となっていた。

特に老人と女性への中毒性は顕著だった。たとえ年老いていても、自分の容姿に自信がなくても、夢の世界では若く、しなやかで、逞しく、美しい肉体でいられる。現実とは異なり、理想の自分を容易に体現できる。夢から覚めると嫌が応にも現実と向き合うことになる。人々はますます夢の社会へと逃避した。