エデンの夢

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そのレジスタンスの中に居ながらにしてオネイロスを使い続ける科学者、猪久(いのく)がいた。一見、冴えない優男の猪久だが、周囲の白眼視をものともせず、レジスタンスでありながらオネイロスを使い続けた。猪久が人間関係に気を使わず、特に理由も説明をしないため、仲間の大半はあきれ果てて離れてしまい、いまや一番の親友が一人残っているだけだ。この親友はお世辞にも頭が良いとは言えないが、余計なことを言わず猪久の身の回りの世話を生き甲斐にしていたので、研究に没頭したい猪久と利害が一致していた。 「ついにできた。これなら大丈夫だ。問題ない」 ある日、オネイロスの見せる夢から目覚めた猪久は自信満々に宣言した。彼は明晰夢の中で思考による実験を繰り返し、「モルペウス」を開発したのである。モルペウスはオネイロスの技術を応用し、他人の夢に入り込み介入できる装置である。オネイロスには、明晰夢をクリアに保つため、外部からの干渉を遮断する機能があるが、モルペウスはその遮断機能を無効化して介入が行える。相手の夢に入り込んでも夢主(ゆめぬし)の思うままに、存在を変えられてしまうこともない。 「現実世界では手も足も出ないが、夢の世界なら直接相手の親玉に近づける。」 「すごいですね、猪久さん。で、乗り込んでどうするんです? 暗殺でもするんですか?」 「まずは話し合う」 「へ? 話し合いですか?」 「力ではどうにもならんのはもうわかりきっている。何よりも、オネイロスを研究する過程でいくつかあの女傑に聞きたい疑問が見つかったんだ。あの女、たぶん宇宙人か何かだ」 鋭いのか情けないのかよくわからないが、自信満々の猪久は計画を敢行した。     
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