第1話 薔薇の魔術師

2/21
前へ
/21ページ
次へ
俺は、内藤弘平。22歳。あまり有名ではない私立大を卒業し、就職難民と呼ばれるこのご時世に、会社説明会に参加したのは100社。面接を受けたのは30社。悉くお祈りメールを頂き、絶賛浪人中。私立大の就活中に見つけた画廊の受付アルバイトをしている。 俺の上司にあたるオーナーは、60代くらいの品の良い白髪の男性。この人からお給料をもらっているので、ずっとこの人と俺の2人だけだと思ってた。ついこの前までは。実は、アメリカ帰りで鑑定士の資格も所有しているハイスペック美少女がいて、この美少女も俺の上司だと、オーナーから紹介された。 オーナーの名前は、鈴木福男というのだが、偽名だと最初に言われた。面接でこんな事を言われて、普通ならドン引きだし、怪し過ぎて帰るのだが、お祈りメール続きで焦りまくってたせいか、それは些細な事だと思ってしまった。多分、正常な判断が出来なかったと思われる。 「偽名でも何でも構いません! とにかく働きたいんです!」 と、言っていた。……今、思えば、かなり切羽詰まっている。 「偽名だと言っている私が言うのもなんですが、それだと詐欺に遭うなり、ねずみ講に引っかかるなりしますよ?」 と、オーナーに冷静に突っ込まれたのが、つい昨日のように思えている。
/21ページ

最初のコメントを投稿しよう!

10人が本棚に入れています
本棚に追加