第1話 薔薇の魔術師

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オーナーは、名前こそ偽名だが、他は尋ねれば正直に答えてくれる。例えば、なんで偽名なのか? という問いかけには、こう答えた。 「本名は、黙っていて下さい。と言ってもどこかで漏れる可能性が有りますから。例えば、内藤君のご両親に尋ねられた時、内藤君はご両親なら、と話さないとも限らない。もちろん、内藤君がご両親にも黙っていられるとしても、そうすると今度は黙っていることが辛くなる事もある。だから知らない方がいいのですよ」 と。じゃあ、本名はバレるとマズイ状況に陥るのか、と尋ねれば、こんな答え。 「バレるとマズイ状況にも様々あるでしょうが、犯罪に関わった名前では無いです。つまり、泥棒の犯人とか、殺人の犯人では無いので安心して下さい。むしろ、本名は警察に知られると好意的に捉えてもらえますが、それが煩わしいのだと思って下さい」 警察に好意的に受け入れてもらえる本名なのに、偽名なのか。もしかしたら、所謂警察OBなのかもしれない。でも、挨拶をされるのが嫌、とか。それで偽名か。有り得る。それでも本名を隠す理由にイマイチ納得出来ないけれど。あ、警察官が立ち寄る場所になると商売に支障が出る、とか? そんなところかもしれない、と処理して、俺はオーナーと呼ぶことにしている。こんな具合で、オーナーは正直だと思った。
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