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オーナーは今、外出中だ。定期的にオークションや他の画廊を巡って佐々木龍生の絵を探しているのだ、と聞いている。オーナーなら声をかけられるだろうけれど、生憎俺は美術方面に詳しくない。佐々木龍生なる画家についてもネットで検索をかけて、ようやく少し情報を仕入れたくらいだ。そんな俺が話しかけていいものか迷う。
「あの」
だが、俺の逡巡などあっさり霧散した。少女の方が話しかけて来たのだから。
「……はい」
ちょっと間が空いたのは、わざとじゃない。でも結果的には良かったと思う。即座に反応したら、あなたに注目してました。と言っているようなものだから。
「あの。このお店の佐々木龍生は、これだけ、ですか?」
「……と、仰有いますと?」
「あ、いえ。別に……」
少女の質問に意味が解らず問い返すと、少女が怯んだように口籠った。怖がらせたのだろうか?
「お……私は、アルバイトでしてお尋ねの件について、無知を晒してしまい、申し訳ないです。詳しくお話をお伺い出来ましたら、オーナーか鑑定士に話を通しますが、いかがでしょう?」
俺、と言いかけて私に一人称を変更しつつ、そんな提案をした。あまり有名ではない……要するに無名の画家の作品が、これだけしか無いのか? と問いかけてくるのだから、もしかしたら少女は詳しいのかもしれない。と思っての提案だった。
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