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オーナーから緊急時の連絡先を聞いている。緊急時とは言えない事なのに、申し訳ないと思いながら席を立って少女に見えない場所で電話をかけ始めた。少女からは見えないが、防犯カメラを設置しているため、衝立のこちら側で少女の行動は画面に映し出されている。監視しているようで俺が落ち着かないが、絵の盗難を考えると仕方ない、とオーナーに諭されてしまえば、しがない受付アルバイトは拒否出来なかった。
“もしもし。どうしましたか?”
オーナーの落ち着いた声に、俺も落ち着いて話す。
「現在、来客がありまして。その方が仰有るには、佐々木龍生の絵はこれだけか、と。うちにあるのは、店に飾ってあるので全部でしょうか?」
“いいえ。確かに佐々木龍生の作品は未だ有りますし、うちにも有りますが……。その方は、何故そのようなことを?”
「俺も解りません。話を聞きたい、と要請をしたら、オーナーか鑑定士に会って話したい、と」
俺の言葉が聞こえているはずなのに、オーナーは黙っている。どうするのがいいんだ?
「あの、オーナー」
“失礼しました。鑑定士の存在は公にしていないのに、何故ご存知なのか、考えてしまいまして”
「あ、言っちゃダメだったんですか? すみません」
“ああ、内藤君が話したのですね? それなら構いません。ただ、向こうから言われたのかと思ったものですから”
苦笑が聞こえてきた。
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