歩道橋の夕日

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「初めて行ったのは小4の時だった。俺は席に座ってひとしきり流れる皿とレーンを眺めていた。好きなものを食べて良いって言われたんだよ、珍しくね。家は決して裕福なんてもんじゃなかったが、そうさ、一皿百円均一と唱う寿司屋ができたんだ。今では数えきれないほどあるが、俺たちの時代ではかなり珍しかった。安すぎると一部では心配する声もあったが、俺は親父に行きたいとせがみ、十歳の誕生日にようやく連れていってもらったよ。……ああ、そうだ。それで俺は迷わず玉子の皿を取ったんだ。するとすかさず、父親が怒鳴ったんだよ。何勿体無いことしてるんだ、そんなのより、もっと定価の高いもんを食えってね。母親は何も言わなかった。 つまりな、俺がいたのはそういう環境だったんだ。個人の好みよりも、客観的な価値基準で物事を、善悪を判断する。そういう家だった。」 「絶対的な判断を客観的に下すことは出来ません。」 「え?」 「絶対的な客観性を持っていると信じ込むことほど恐ろしいことはありません。それはいつだって相対的な主観性でしかないんです。」
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