第一幕:将来なんになるのー?

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 勇気を振り絞って「付き合って下さい」と言ったら、「ありえないことはない」と返された。告白の返事としてはあまりにも常軌を逸しているし、返し刀としてこれはあまりにもありえない。  けれど、人間の性質なんて千差万別なのだから、やはりこういう女性が存在することもまあ「ありえないことはない」のだろう。  だいたい、僕はあらゆる人脈を活用した情報収集の結果、先輩がおおよそ常識的尺度で測りきれない女性というのを想定できていた。女々しい詮索屋なのではない。僕こと小金井晴太(こがねい せいた)二十歳は、負け戦が嫌いな性分なのである。 「またやってる」と冷徹な、あるいは「どうせ無理なんだから」と好奇な一瞥を僕へと向けながら、学生が足早に過ぎ去っていく。  確かに、一世一代の告白の場が、大学構内に植えられたフェニックスのたもとで、というのはいささか格好がつかないだろう。というか目立って仕方がなく、ともするとスタンドプレーと思われること請け合いだ。  けれど、先輩は忙しい人で、多少なりとも強引に呼び止めでもしないと、気持ちを伝えるチャンスすら巡ってはこないのだ。
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