幕間劇

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 本当に清田先輩を気遣うというのなら、喧嘩があったという事実自体が秘匿されてしかるべきだからだ。けだし、その原因には先輩に知られたくない要素も含まれていたのではという気がしてならない。 だからこそ、この話は単なる反抗期を迎えた一人息子の横暴という枠組みには収まらないわけだ。 「とにかく、そのとき何が起こって夏輝が怒り心頭に発したのか。それは私には分からない。私は、すぐに大学に進学して郷里を離れてしまったからな。だからこそ、困っているわけなんだ」  きっかけが分からないというのは確かに辛いものがある。例えば、複雑に絡んでしまって一見するとほどくことが困難に思える紐も、その結び目がどこにあるかさえ掴んでしまえば、あとは捻じれをほどく存外単純な作業と化す。先輩の場合、その結び目の見当がつかないのである。 「……先輩が鹿児島にやってくるまでの五年間で、夏輝と姉弟との溝は更に深まっていったというわけですね?」  先輩は静かに首肯した。
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