幕間劇

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 もともと先輩とべったりというわけではなかったにせよ、久しぶりの再会の機を完全に拒絶するというのは普通の事態ではない。以前、夏輝は実家にも帰っていないというような話を聞いていたから、先輩の言うくだんの事件にその端緒があると見て良いだろう。  夏輝の内向的で偏屈で人嫌いという特性は、徐々に氷解の一途を辿っている。しかし、これらはあくまでも副産物でしかない。  夏輝と、先輩と、清田家と。双方の間にぽっかりと空いた溝は、彼の交友録がいくら増えようが解決のできない問題を孕んでいることは自明だ。  となると、これは『清田家のかぐや姫』の無理難題とは大きく懸隔する問題だ。とっくに僕の手を離れてしまっている。  結局、その日はそれでお開きとなった。くれなずむ夕日を窓外に捉え、路面電車に揺られてぼんやりと考える。路上に積もった火山灰を黄色いロードスイーパーが忙しなく掻き込んでいる。夏輝の心中に広がる退廃の色も同じようにきれいに回収していってほしいものだけれど。  僕の心は固まっていた。  手を離れたのならば伸ばせば良いのである。ただ、それだけの話なのである。 南国の温和な空気感が、なんとなくそれを可能なことのように思わせた。  
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