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忘れていた、こいつ基本的に不躾な奴だったんだ。人間の慣れとは、げに恐ろしや。おそるおそる木佐貫さんの顔色を伺ってみる。少々面食らったようではあったが、それよりも「真相」という方に興味が流れたのだろうか、
「本当か、君!」
幅の広い夏輝の両肩をがっしりと掴んだ。夏輝は迷惑そうにむっと顔を背けたが、木佐貫さんはお構いなしである。そうか、この偏屈マッチョに対してはこういう主導権の握り方もあるんだなと感心した。
どうしたものかと頭を抱えていたところに現れた夏輝にもっけの幸いとばかり飛びついて、木佐貫さんは事務所へと通してくれた。
夏輝はさも当然とばかり椅子にどかりと腰を下ろす。彼がそんな態度をとるたびに僕がハラハラすることになる。一挙手一投足に狼狽するその様は、中間管理職もかくやと思われた。
怪訝な表情の岸本くんも入室し、とんとん拍子で舞台は整ってしまった。僕を見つけた途端、岸本くんの眼鏡の奥の表情が沈んでいくのが分かった。それはそうだろう。岸本くんの例の嘘に気付ける唯一の存在が僕なのだから。
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