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「さて、まずはこの場に岸本を呼んだ理由から話そうか。その方が早い」
そう言うと、夏輝は僕に語った時と同じ道筋を辿りながら、推理演説を始めた。つまり、彼がまず明かしたのは岸本くんとくだんの黒ずくめがグルだったということ。けれども、彼らは窃盗罪という罪状に処されるような行為を計画したわけではないということ。そして、それらの証左となる細かな理由の裏付けだった。
木佐貫さんも岸本くんも無言を貫いていていたけれど、前者はみるみる紅潮し、後者はどんどん青ざめていくのが、遠目からでもはっきりと分かった。夏輝が、では岸本くんの目的はなんだったのかと問題提起した段になって、たまらずといった具合に木佐貫さんがその重たい口を切った。
「岸本、お前なにやらかしやがった!」
鋭い一喝が狭い室内に反響した。木佐貫さんから睥睨された岸本くんは縮み上がってしまい、頼りがいのあった数時間前の姿はすっかり消え去っている。まずいか、僕がとりなした方が。立ち上がろうとした折、夏輝が僕の先をいった。
「まあ、待て。まだ推理の途中だ。言いたいことはあるだろうが、それは俺の話を全て聞いてからでも良いだろう」
さすがにさっきから岸本くんが気の毒だったので、僕も遅れて
「そうですよ。ひとまず今は抑えて、待ってください。僕からもお願いします」
援護射撃をしておいた。客からそんなことを言われてしまったら、木佐貫さんも下がるしかない。彼は、特徴的な太い眉をまたハの字にして、憮然と押し黙った。
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