第一幕:将来なんになるのー?

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「すまないね、ついカッとなってしまって。夏輝くん、だったよね。続けてくれ」  夏輝はコクリと頷いた。 「木佐貫さん。どうもあんたはどこか岸本を誤解しているようだな。こいつは不真面目な人間じゃねえよ。むしろ逆だ。真面目なんだ、なんに対してもな」  含みのある様子で夏輝はそう言った。木佐貫さんは、先ほどの自分の態度を顧みて懲りてしまったのか、反駁することはない。夏輝の言うところの「真相」を知っている僕は、ただ固唾をのんで見守るしかない。  今度は誰からも横槍が入らなかったので、夏輝も調子を取り戻したのか僕を指差しながら「俺がこいつに聞いた話だと」と前置きしたうえで、またすらすらと語り始めた。 「岸本は商品の案内を終えると、レトルト食品の方へと向かっていった。これは十中八九持ち場に戻ったということで間違いないだろう。だとすると、岸本の所属はグロッサリー部門だ。にも関わらず、青果部門や鮮魚部門の商品も迷いなく次々と手に取ってみせた。研修期間の若葉マークを付けているバイトが、だ」
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