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「し、しかしそれと岸本がサボりの常習というのは繋がってこないんじゃないか?」
ずいぶんと弱腰の木佐貫さんが、異議を唱えるというよりは質問をするといった調子で言った。これくらいは、誰もが抱く疑問だろう。
「大いに繋がるね。そもそも人間の評価なんて一面的なもんだろう。普段、寡黙で静かに仕事に没頭する人間がいたとして、そいつは物静かゆえ目立つことはない。そうなると、粗だけが異様に目立つという状況がたびたび起こる」
不良がゴミを拾ったらやたらと賞賛されるのと逆のベクトルの現象だと僕は思った。夏輝はさらに続ける。
「岸本の見せた粗というのは、はっきり言ってしまえば、休憩時間をしっかり守れないというこの一点に尽きる。だが、目立ってしまったこの粗のせいで、寡黙という性質にも悪いイメージが付いてしまったんだ。俺が言いたいのはここからだ。それにもきちんと理由があった。岸本は確かめたかったんだ、あるものをな」
物言わぬ岸本くんは、しかしその表情で自らが激しく動揺していることを雄弁に語っていた。大きく開いた双眸は、制御を失い左右に忙しなく動いている。
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