667人が本棚に入れています
本棚に追加
「ちなみに、岸本が普段とは似ても似つかない積極的な接客態度を見せたのは、負い目ある行動をする前だったからこそだろう。何かをしていないと落ち着けないという心理は分からんでもない」
夏輝は言い終わらぬうちから、やおら立ち上がった。
「どうしたんだい?」
目的は分かっていたけれど、他の二人の代弁として僕が尋ねる。なんだか台本を読んでいるようで後ろめたい。
「通用路に案内してくれ。それとハシゴの用意を。あとは見た方が早いだろう」
案内してくれと言ったのに夏輝はさっさと事務所を出て行ってしまう。慌てて木佐貫さんがそれを追い、岸本くんは諦念したかのように後塵を拝した。全員が出るのを見届けてから僕も事務所を後にする。謎がもたらした非日常が、日常へと収束しようとしていた。
◇
謎が解明されるときというのは、存外あっけないものだ。人間は未知にこそ心踊らされる。未知が既知に変容すれば、それは驚くべきスピードで興味の埒外へと跳ね飛ばされてしまうからだろうと僕は勝手に思っている。
しかし、今回ばかりは何かが違った。未知は既知に確かに変わったのだけれど、そこで終わらせてはいけない。いつだって複雑怪奇な人間の感情が作り出した謎には、解決編を付与しても拭いきれない残滓の欠片が残る。そして、それが更に真相を昇華させるということも。
最初のコメントを投稿しよう!