第一幕:将来なんになるのー?

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「こ、これは……」  闇に包まれた通用路。更衣室に面した壁にハシゴを立て掛け、一人一人が順に夏輝の示唆する「あるもの」を確認していった。懐中電灯片手に上っていった木佐貫さんは、頂上でそれを確認し暫時、絶句していた。  岸本くんはというと、腹をくくり煮るなり焼くなり好きにしろといった気配である。  夏輝の推理は的中していた。岸本くんが盗み出そうとしたもの、それは……。いや、ここで僕が真相を明かしてしまうのは野暮というものだ。探偵にその大役は任せるとしよう。  夏輝は木佐貫さんが下りてくるのを確認してから、改めて真相を告げた。 「今、確認してもらった通りだ。岸本と例の黒ずくめが持ち出そうとしたのは野鳥の卵だ」  梁の裏側。下からではよほど覗き込まないと分からない所にそれはあった。木くずを固めて作られた小さな巣に卵が三つ。門外漢なので、品種は判然としなかったけれど、それが鳥の卵であることは一目でわかった。  夏輝が僕に開示した情報はここまでだった。だから、当然僕としても気になる部分はある。木佐貫さんも岸本くんも黙ったままだったので、それをぶつけてみる。 「でも、どうして岸本くんたちはわざわざ勤務時間中に卵を採ろうなんて不審な真似をしたのさ」  その回答は意外な人物からあがった。 「鳥獣保護法。野生動物を飼養することは禁止されているんだ。そして、それは卵も例外じゃないんだよ」  木佐貫さんだった。彼は全てを理解したように、悲しそうな表情を浮かべている。岸本くんを一喝していた姿はもうない。夏輝が言葉をつなぐ。 「つまり、岸本からすれば、卵を採る行為は人に見られてはいけなかったんだ。夜はこの通用路も閉めきられるし、タイミングは営業時間、それも休憩時間が終了した直後しかなかった」  夏輝は口をつぐむと、岸本くんに鋭い一瞥を投げた。ここまでくると言い逃れはできない。心苦しいが、彼の自白の言葉を待つしかない。
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