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皆の視線が岸本くんへと収斂していく。腹をくくった岸本くんは肩の荷が下りた様子で悠揚迫らぬ態度だ。
静かに自供は始まった。悪意無き盗人の自供が。
「あの巣を発見したのは、ここで働き始めてすぐのことです。ころころとした卵が三つ。もとより動物が好きなもので、大変に興味を惹かれました。だから、悪いこととは思いつつも休憩時間が終わって皆さんが持ち場に戻られたタイミングを見計らって、様子を観察していたんです。もしかしたら生命が誕生する瞬間を拝めるかもしれないと思うと止まらなくて」
「生命の誕生という出来事の崇高さに酔っていたわけだな」
夏輝のきつい言いまわしに岸本くんは深くうなだれる。咎めるのはやめておいた。
「何を言われても仕方がありません。その通りです。もちろん、最初はそっと見守るつもりでした。ただ、どういうわけか卵がなかなか孵らないんです。卵から品種を判別することは僕にはできません。ですが、それにしても孵化の兆しが見られない。だから……」
「人工的に孵化させようと企てた。そうだな?」
ベテラン刑事のような口調で言いよどむ岸本くんの二の句を継いだのは木佐貫さん。岸本くんは力なく「はい」とだけ言った。木佐貫さんと夏輝が大きく嘆息したのはほぼ同時だった。
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