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「最初からそうじゃないかと思っていたんだ。岸本がバイトを始めたのが今月の初めごろ。そして今はもう四月も終わりに近い。いくらなんでも卵が孵らないという状況はおかしいなと思っていたんだよ」
はっとした。夏輝が家を出る前に呟いた「手遅れ」とはこのことを指していたのか。夏輝は溜まっていた推理演説の一端をさらに開放する。
「岸本は卵の発見時期がバイトを始めてすぐだと言っていた。また、卵の個数は三個だったともな。そして今しがた確認した通り、巣にある卵は三つのままだ。排卵期の鳥の巣に卵が追加されないというのはおかしいんだよ。さらに鳥の品種が判然としないということは、あいつ自身が親鳥の姿を見たことがないということになる。これだけの事実を並べてみるとはっきりすることがあるが……」
夏輝はちらりと木佐貫さんを見やった。木佐貫さんは困ったように短髪をばりばりとかきむしる。
「親鳥は死んでいる可能性が高いんだよ。自然界じゃそう珍しいことじゃない」
「そんな!」
さらりと告げられた真相のその先に眩暈がして膝を崩しそうになる。
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