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自分の手作りだと思われる鞄に兎を入れると、鶏は手に持ったまま海へと向かったその男。
断崖を器用に降り、俺も必死に後を追う。
「…上で待っていればよかったのに。」
「俺も覚悟を決めたんだ。お前についていくさ。」
「…犬かよ。」
カチン!ときたものの、再度笑ったのを見ると文句も引っ込んだ。
無表情か眉間に皺。そんな顔が多い男の笑顔は、俺に少しでも気を許してくれたんじゃないかと思わずにはいられないほどレアだ。
男は鶏の足を縛って固定すると、服を脱いだ。
そのつなぎのウエスト辺りを固く縛ると、「ここで待ってろ」と小さく呟き、海に飛び込んだ。
時間にして30分程だろうか。
何度か息継ぎのために上がってきたのを眺めるだけだったが、男が俺に手招きをして呼び寄せた。
近くに寄って知る、大量の海の幸。
「…すげ!!お前漁師か?」
「んなわけねぇだろ。そっち、持てるか。」
「ああ。」
「重いから気をつけろよ。」
そうして海へ戻り、さらに30分。
「…あれ?これは?」
「これはここに置いておく。」
「え?」
「いいんだ。上がるぞ。」
男はつなぎを海の中に放置したまま陸に上がった。
多分、さっき水から上げた魚介より倍以上あるだろう。
そして、鞘から刀を抜くと、鶏の方へ歩く。
足を掴んで逆さにし、暴れる鶏をものともせずに躊躇なく首を落とした。
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