未知の恐怖

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叫ばれた声に立ち止まった男。 ギュッと目を閉じた。 小さく「あのバカ…」と呟くと、再度歩き出す。 「…いいのか?」 「何が。」 「行かなくても。捜してるだろ、あれ。」 「…言っただろ。俺は人を殺した。あいつらの傍にはいないほうがいい。 ”弟”はまだ中学生だしな。教育上よくないだろ。」 「このゲームで教育上も何もないと思うけど?…”悠馬くん”」 「…なれなれしいな。名前で呼ぶな。」 「じゃ、”おい”にする。」 「腹が立つ。やめろ。」 「…へへ。」 この男、どうやら”悠馬”というらしい。 やっと知ることのできた名前は、なぜかかっこいいとさえ思ってしまったほど嬉しかった。 …多分名前を知っただけじゃない。 大事にしているものが無事だった安堵? 自分をまだ呼んでくれる”友人”が変わらないこと? 近くに感じた仲間の存在? それらが混じった優しい顔を見れたからだ。 「…大事なんだな。悠馬くん。さっきの友達。」 「……………」 「いいなぁ。…俺もそんな存在欲しかったなぁ。」 毎日金を稼ぐために働き、遊びや飲み会に誘われても行かなくなった。 連絡があったことを知るのは、いつだって日付が変わってから。 友達だと思っていた奴も、いつの間にかいなくなっていた。 …俺にはもう、母親しかいなかったんだ。 「…真鍋。置いていくぞ。」 「…え、」 「ほら。」 今度は俺が立ち止まって空を見上げていると、10mほど先で俺を振り返って見ている悠馬がいた。 そして、近づいて俺に手を差し伸べたんだ。 俺、悠馬にとって”友達”とみなされてなくても”仲間”と思われてるんじゃないか?なんて、少し嬉しくなった。
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