試練

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一瞬で笑いに包まれた。 内心胸を撫で下ろしながら、全員の顔を見る。 恐怖に苛まれたとき、心理学では物事を積極的に捉えるか、ある程度の時間が有効であるとされている。 ネガティブからポジティブへの変換。 言葉では簡単だが、相当自分の心を訓練しなければ出来ないことだ。 ならば後者の"時間を置く"、これが簡単。 一度考えを切り離すことでリセットされた脳は、冷静に考えるための時間が出来る。 そうすることで焦りを無くし、物事を落ち着いて見ることができ、結果、答えを出すには十分な精神状態となるのだ。 それを知ってか知らずか。 羽田くんは見事に打開したのだ。 「さ、そろそろ30分。岳、目覚まし時計。」 「了解。…ここで大丈夫?」 「もうちょい左。…うん、そこでいいよ。」 声が出るようになった岳は、本当に明るくなった。 何事もトライしようと積極的に動くようにもなったし、訓練を終えてからは好奇心さえ生まれてきた。 そして接し方。 どこかよそよそしかった最初の頃とは違い、今では自分から接するようになった。 その一つがこれだ。 眠っている僕や竜くんを起こすとき、体当たりの起こし方をする。 「…グハッ!…な、なんだ!何事!」 「悠馬くん、30分だよ。」 「…は?お前がやったのか。」 「スパッと起きれたでしょ?」 悠馬くんの反応、そして岳の悪びれた様子もない笑顔。それがまた笑いを引き起こした。
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