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「花音。窓の鍵はちゃんと閉めとけって言ってるだろ」
「だって……」
反論しようと一度口を開くも、私はすぐにその口を噤むと溜息を吐いた。
(だって、鍵を閉めてると開けるまでひぃくんが窓を叩くから煩いんだもん……)
お隣に住むひぃくんは小さな頃からの幼なじみで、昔からよく窓をつたって私のベッドへと潜り込んできた。
流石にもう高校生だし辞めて頂きたい。私だってそう思う。
中学生の頃。思春期真っ只中だった私は、ひぃくんがベッドに忍び込んでくるのが嫌でたまらなかった。だから窓に鍵を掛けた。
いつものように夜中に窓の外に現れたひぃくんは、「花音あけてー」と言って窓を叩いた。私はひたすら無視を決め込み、コンコンと叩く煩い音に耳を塞いだ。
それでも、暫くしても諦めようとせずにずっと窓を叩き続けるひぃくん。
(もう、いい加減諦めてよ……)
頭から布団を被って聞こえないフリをすると、気付いたらそのまま熟睡してしまっていた私。翌朝目が覚めると、カーテンを開けて驚いた。
──なんと、窓の外にひぃくんが蹲っているのだ。
(真冬だっていうのに、まさかずっと外にいたの……?)
急いで窓を開けると、恐る恐るひぃくんに向けて口を開く。
「あ、あの……、ひぃくん?」
私の声にピクリと肩を揺らしたひぃくんは、俯いていた顔をゆっくりと上げた。
「花音……。おはよー」
鼻水を垂らしながらフニャっと笑ったひぃくん。その日、ひぃくんは40度の高熱を出した。私よりニつ年上のひぃくん。正直、なんてバカなんだろうと思った。
──それ以来、私は窓の鍵を必ず開けるようにした。
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