325人が本棚に入れています
本棚に追加
お兄ちゃんに首根っこを掴まれたまま、ズルズルと引きづられてゆくひぃくん。
「花音、また後でねー」
相変わらずニコニコと微笑んでいるひぃくんは、ヒラヒラと手を振ると私の部屋から廊下へと連れ出される。
そんな二人の姿を静かに見送った私は、大きく溜息を吐くと閉じられた扉を見つめた。
あんなんでも──実はひぃくんは凄くモテる。
お兄ちゃんとは対照的な雰囲気だけど、同い年の二人はその人気を二分にして、昔からよく学校の女の子達から騒がれているのだ。
(私だって……)
何を隠そう、実は初恋はひぃくんだったりする。
まるで絵本の世界から出てきたかのように、王子様みたいにカッコイイひぃくん。性格だって優しいし、一見すると申し分ない。
ただ、ひぃくんはちょっと変。
私がそれに気付いたのは、小学四年生の頃だった。
休み時間に廊下でクラスの男の子と話していると、突然やってきたひぃくんが男の子を殴った。
私の目の前で豪快に吹き飛ぶ男の子。周りでは悲鳴が聞こえ、殴られた男の子は床に尻もちを着くと呆然とひぃくんを見上げる。
あっという間に騒ぎになった廊下に、誰が呼んだのか気付けば先生が駆けつけていた。
何で殴ったのかと問いただす先生に、ひぃくんは口を開くとこう言った。
「蚊が止まってました」
((……そんな訳あるはずない。今は二月だ))
その場にいた全員が思った。
最初のコメントを投稿しよう!