第1話 おじさん、勇者、魔王さま…… (1)

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それもね、販売業という商いをしながら、必死になって働いてくれた。自分自身の身を粉にして、無理しながら働いた。 そんな販売業の商いを今はね、俺がお袋の代わりに受け継いでいるよ。 まあ、最初の頃はとにかく、お袋に叱られた! 今でこそ懐かしい出来事だけど、あの頃は何度も悔しくて、悔しくて……。布団の中で涙を濡らしたものだよ。 特に俺、ろくに仕事など、した事などないからね。いきなり売り場に立っても何も出来ない訳なのよ。 でもね、そんな俺に、お袋は容赦無く、物の売り方!  お客さまの流れを見て止めるやり方等を教えに教え込まれた。 それに他にも、秘伝だといってね、伝授された。人の山を作るやり方等も……。 最初はね、中々出来ずに苦労していた俺だけど。お袋を助けたい一心で、必死になって覚えたよ。 安堵もさせてやりたい気持ちもあるから。 だから必死になって覚えた! お袋の言う秘伝という奴をね。 だから俺、お袋に「もう大丈夫だから、お袋心配しないでよ──」と、言った。 するとね、お袋、もう思い残す事は無いぞと、ばかりに病気が急変し。それからは通いでは無くて、病院に入院になったのだよ。 まあ、そんな訳だから、俺は一人で販売して回った──売りに売り回ったのだ。 それもさぁ、ロングの箱型ワンボックスの営業車でね。 もう県内をあちらこちらと、たまにはね、出張販売で県外にも販売に行ったよ。 とにかくあの頃の俺は、お袋の入院費を稼ぐ為に必死だった。
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