拓未は去っていった

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 翌日。 「恵美ちゃん、僕今日から夏期講習だから、ガマくんのことよろしくね!」  朝ご飯を食べ終えた拓未は、礼儀正しく「ごちそうさま」した後、お皿を流しに運んでいる私に声をかけた。 「よろしくね、って。一体何をさせる気? ガマくんの散歩とか?」  私は冗談を飛ばして、振り返って拓未を見た。  拓未は来た時と同じリュックを背負っている。  もう塾に行く時間なのだろうか?  冗談を発した三日月の口で固まる私をよそに、拓未はおぞましい言葉を口にする。 「違うよ。ガマくんのごはん、ちゃんと忘れずにあげてね、ってこと!」  ちょっと、待て!  どういうことだ!? 「えっ? たっくん、ガマくんのお世話しないつもり? 何のために連れてきたのよ!? ちょ、ちょ、どこ行くの? 置いていかないでぇ~」  こちらの意向など、全く無視して玄関へ行こうとする拓未を、もはや縋る思いで引き留める。  拓未は靴を履こうとしているところで、やっと振り向いた。 「恵美ちゃん、昨日の餌やり見てたでしょ? 一日一回、夜、寝る前かな」 「ちょっと、待って! お薬じゃないんだから……ムリだって!」 「だって、僕今日から塾の夏期合宿なんだもん。  僕もう5年生だよ? 中学受験コースの子は、塾の合宿に参加しなきゃいけないんだぁ。  ママがね、恵美ちゃんなら預かってくれるって。ガマくん」 「えっ!? 聞いてないよ? なにそれ!?  あの野郎……、はかりやがった……」  ほくそ笑んでいる姉の顔が浮かんで、私は思わず奥歯を噛みしめた。 「恵美ちゃん、じゃあ僕行くね! 遅れちゃう!  困ったことがあったら、ラインして!」  拓未はつま先をトントンと鳴らして靴を履き終えると、捨て台詞を残して出ていった。 「あぁぁぁ……」  玄関で膝をついて項垂れる私……  どうすんだよーー!? アレーー!…涙
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