こんな天気のいい日には

3/15
前へ
/15ページ
次へ
 にやっと、特徴的な笑みを彼は浮かべる。吉川くんの発言は反応に困る。笑おうとした口がひきつるのを感じた。正直こういうスキンシップには慣れていない。こんな風に絡まれたとき、一体どうすればいいのだろうか。明確な答えがあるのなら、誰か教えて欲しい。今はただひたすら、吉川くんを見つめることしかできないでいる。彼はほっぺをつつくのを止めると、空いていた前の席へ腰をかけた。おもむろに僕の机にひじをつく。 「ねえ、いいんちょ。かまって」  だろうね、と予想していた言葉に曖昧な笑みを浮かべた。 「吉川くんはいつもそう言うね」 「だって暇だから」 「それは他の人じゃダメなの?」 「他の人がダメじゃなくて、いいんちょがいいから話してる」  そうきっぱり言い切られると、それ以上追求することはできない。 「〝かまって〟って言われても、何をしたらいいのか分からないよ」 「それじゃあ話そうよ」 「いいよ」  開いていた小説に栞をはさみ、ぱたんと閉じた。 「いいんちょってさー、いつも本を読んでるよね」  吉川くんがまじまじと僕の手の中に収まっている本を見る。 「そうかもしれないね。時間があるときは本を読んでいることが多いかも」 「これ、買ったの?」 「うん。本屋さんの中をうろついていたときにね、タイトルに惹かれて勢いで買っちゃったんだ」  そっと背表紙を撫でる。 「うみのそこのー……」 「〝海の底のアルトミア〟ってタイトルだよ」 「ふぁんたじー?」 「そうだよ。海外ファンタジーでね、シリーズものなんだ」 「どんな話?」     
/15ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加