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にやっと、特徴的な笑みを彼は浮かべる。吉川くんの発言は反応に困る。笑おうとした口がひきつるのを感じた。正直こういうスキンシップには慣れていない。こんな風に絡まれたとき、一体どうすればいいのだろうか。明確な答えがあるのなら、誰か教えて欲しい。今はただひたすら、吉川くんを見つめることしかできないでいる。彼はほっぺをつつくのを止めると、空いていた前の席へ腰をかけた。おもむろに僕の机にひじをつく。
「ねえ、いいんちょ。かまって」
だろうね、と予想していた言葉に曖昧な笑みを浮かべた。
「吉川くんはいつもそう言うね」
「だって暇だから」
「それは他の人じゃダメなの?」
「他の人がダメじゃなくて、いいんちょがいいから話してる」
そうきっぱり言い切られると、それ以上追求することはできない。
「〝かまって〟って言われても、何をしたらいいのか分からないよ」
「それじゃあ話そうよ」
「いいよ」
開いていた小説に栞をはさみ、ぱたんと閉じた。
「いいんちょってさー、いつも本を読んでるよね」
吉川くんがまじまじと僕の手の中に収まっている本を見る。
「そうかもしれないね。時間があるときは本を読んでいることが多いかも」
「これ、買ったの?」
「うん。本屋さんの中をうろついていたときにね、タイトルに惹かれて勢いで買っちゃったんだ」
そっと背表紙を撫でる。
「うみのそこのー……」
「〝海の底のアルトミア〟ってタイトルだよ」
「ふぁんたじー?」
「そうだよ。海外ファンタジーでね、シリーズものなんだ」
「どんな話?」
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