こんな天気のいい日には

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「えっと、主人公は冒険に憧れる少年でね、ある時こっそり大きな船に乗り込むんだ。でもその船って実は海賊船で……。ひょんなことから主人公は船長と仲良くなって、そのまま船員として世界中に散らばるお宝を探す手伝いをすることになる、というのがおおざっぱなあらすじかな」 「へえー」  吉川くんは視線を本から僕へと移す。いつもにやついている顔が、どこか楽しげに見えた。 「楽しそう」 「うん、とってもわくわくするんだよ、この話。主人公達に次から次へと困難がふりかかるのだけど、それを予想外な方法で乗り越えていくんだ。展開がジェットコースターみたい。だけどちょっとしたところに伏線もあって――」 「そうじゃなくて」  吉川くんが言葉を遮る。そして一呼吸おいて、こう言った。 「いいんちょが、楽しそう」 「えっ……」  思わぬ言葉にぽかんとしてしまう。 「……そう、かな?」  確かに話しやすい内容だったせいか、いつもより言葉数が多かったかもしれない。そのせいか、どこか気持ちがふわふわしている。だけど楽しいのは僕だけじゃない。吉川くんも同じくらい楽しんでいるように見えた。そのことを口に出そうとして、言葉を飲みこむ。違っていたら恥ずかしいし、何より彼が楽しそうな理由が分からないからだ。人の話を聞くのが好きなのだろうかと、心の中で思うことにする。 「ねえ、好きなのはこの本だけ?」     
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